森法律事務所
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株価算定事件について、昨年10月に参考となる裁判例がありましたので、ご紹介します。


インテリジェンス株式買取価格決定申立事件抗告審決定
平成22年10月19日東京高裁決定平成22年(ラ)第798号(金融・商事判例No.1354,14頁、 商事法務No.1921,57頁)

回帰分析の手法は、一般的に科学的根拠に基づく合理的手法であるというべきであるところ、本件におけるNERA意見書の回帰分析の手法を用いたジャスダック指数の変動率に基づく本件恒等式は抗告人株式価格の価格変動を予測するにつき高い信頼水準で統計的に有意であると認められるから、本件恒等式により補正された本件株式交換の効力発生日前の価格をもって算定することが、本件株式交換の計画公表前の一定期間の市場株式価格の平均値をもって算定することよりも、より高い合理性を備えるものというべきである。
そして、恒等式の変動係数を当てはめる市場インデックス、業界インデックス等(本件ではジャスダック指数の変動率)は、投機的思惑等一定の偶発的な要素の影響を受ける面もあるので、偶発的要素による影響を排除するためにも、株式交換の効力発生日前の一定期間の平均値をもって抗告人株式の有する基準時の客観的価値を判断するのが相当であるところ、審問の全趣旨によれば、本件における上記の期間としては、本件株式交換の効力発生日の前日からその前1か月間の平均値をもって算定した価格をもって、本件株式の「公正な価格」とするのが相当であると解される。
(引用終わり)



上場企業の株価算定の実務は、東京地方裁判所商事部を中心に、ある程度、定着しつつあるようにも感じます。とはいえ、本件は、第1審の東京地裁決定で「相手方が主張する回帰分析的手法を用いた算定を行うことは相当と認められず、相手方の上記主張は採用することができない。」と決定されていたものを、東京高裁により、第1審決定を変更して、回帰分析という手法に基づく変更(本件では、減額での変更)が認められたものです。

特別抗告・許可抗告中とのことですので、今後、最高裁決定により変更される可能性はあります。東京高裁が東京地裁商事部の決定等を変更した後、最高裁が東京地裁商事部の判断を支持するケースは、決して少なくありませんので、要注意です。

2011年1月31日  7:00 PM |カテゴリー: 法務関連ニュース |コメントはまだありません

昨日のエッセイ「90年代のITベンチャー」で御紹介させていただいた『ネット起業!あのバカにやらせてみよう』の中に、トップのタイプについての記述があります。

真田は後の不遇時代に『コンピュータ帝国の興亡』(ロバート・X・クリンジリー著、アスキー刊)という本に出会う。この本の中に、「企業の成長段階に応じてトップは三種類に分かれる」という分析があった。
第一段階は「コマンド―」である。コマンド―は落下傘で音もなく忍び寄って鋭利なナイフで敵の咽をかき切り進入路を切り拓く。第二段階は正規軍で、隊列を整え命令一下、圧倒的物量で敵を制圧してしまう。大きな斧で相手をなぎ倒してしまうのだ。こうした正規軍のトップは技術的知識を持った将軍でなければならない。第三段階として官僚がやってきて軍政を布く。そうなってくるとコマンド―は居場所がなくなるので、次の戦地を求めて放浪の旅に出るというのである。ごく稀に、企業の成長に合わせて コマンド― → 将軍 → 官僚 と変質していく優れた経営者がいる。(『ネット起業!あのバカにやらせてみよう』29頁)

実は、この手のリーダーのタイプ分析は、ほかにも多くの手法や分類方法があります。(例えば、ちきりんさんの分析(ちきりんの日記「変節点」)も面白いですし、シンプルに年商5億円の「壁」とおっしゃる方もいます。)

ただ、この「コマンド― → 将軍 → 官僚」という分類は、シンプルですので、理解しやすいように思います。

起業を志す方、経営者や事業部門のリーダーの方は、ご自身がどのようなタイプかを考えていただけると、良い経営チームの形成していく上で、参考になるのではないでしょうか。自らを企業の成長とともに、変えるということを目指すことも考えられますが、チームで、コマンド―タイプと将軍・官僚タイプを兼ね備えた人材が両輪でやっていくことで、上手く回るケースも少なくないように感じます(参考「営業出身の社長が陥りがちな罠」)。

私個人としても、多くの良い経営チームが、よいビジョン・志を持って、起業に取り組んで欲しいと願っております。

2011年1月27日  6:00 PM |カテゴリー: ベンチャー・ビジネス |コメントはまだありません

90年代というと、もう今から10年以上前です。

2000年10月に出版されたこの本は、日本のインターネットビジネスの黎明期を、明快に記しています。その本は、『ネット起業!あのバカにやらせてみよう』といいます。

今一度、起業しようと考えている方や、いまITベンチャーに携わっている方もお読みいただければと思います。本を購入するのが面倒という方は、ネット上でも、だいたい同じ内容のものが読めます。

この本に出てくる主な登場人物は、次のとおりです。参考として、括弧内に、判明した範囲での現在のお立場を記載いたしました。主にネット上から情報を得ておりますので、異なっていたら、ご容赦願います。

真田哲弥さん (KLab株式会社代表取締役社長)
堀主知ロバートさん (株式会社サイバード代表取締役社長 株式会社サイバードホールディングス代表取締役社長兼グループCEO)
板倉雄一郎さん (株式会社板倉雄一郎事務所代表取締役社長)
松永真理さん (株式会社バンダイ社外取締役)
國重惇史さん (楽天証券株式会社非常勤取締役)
堀義人さん (グロービス・グループ代表)
小池聡さん (3Di株式会社代表取締役社長)
西川潔さん (ngi group株式会社取締役)
松山太河さん
夏野剛さん (慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授)
(同書の冒頭の登場順)


「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉があります。少なくとも、ネットやITでビジネスを興そうと考えている方や、携わっておられる方はご一読していただくことをお勧めします。勿論、読み物としても面白いですし、起業家がどのようなタイプの人間で、起業家の浮き沈みとはどのようなものであるかが、良くわかる本です。

同書は、10年前に出版されています。この方々の境遇や、勢いのある会社は、この10年で大きく変化したと考えますが、一方で、ネットビジネスの本質は、あまり変わっていないように思います。その意味で、ネットビジネスのモデル・原型は、だいたいこの時代にあったといえるかもしれませんし、次の時代のビジネスのアイディアが出てくるかもしれません。

2011年1月26日  6:30 AM |カテゴリー: ベンチャー・ビジネス |コメントはまだありません

法務省から、「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集(パブリックコメント)が開始されています。

詳細は、e-Govの「「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集」をご参照ください。

主な内容としては、会計に関するものであり、定義規定の増設・改訂や注記に関する規定の整備、監査報告等に関する規定の整備等となっています。

基本的には会計実務に影響する内容と考えます。

ところで、今回の改正案には、「遡及適用」「誤謬」「誤謬の訂正」「会計上の見積り」「会計上の見積りの変更」といった定義が追加されました。もちろんIFRS時代を見越してのものであると考えます。過年度の決算書類の修正という問題は、会社法上も難しい論点をはらんでいるところではありますが、そういった論点も、類型化される等して、どんどん整理されていくのかもしれません。

2011年1月25日  8:00 PM |カテゴリー: 法務関連ニュース |コメントはまだありません

最近、「男はつらいよ 寅さんDVDマガジン」というものを購入いたしました。

誠に恥ずかしながら、この年になるまで、映画『男はつらいよ』をきちんと見たことがありませんでした。
しかし、あまりの面白さに驚きました。まだ、シリーズのうち、ほんの数話しか見ていない私が論評するのも、分をわきまえない話かもしれませんが、少し触れさせていただければと思います。

まず今の映画では、見られなくなった、大家族や地域コミュニティーの中の愛情コメディーです。人と人の距離が近く、それゆえ数多くの人間模様とドラマが発生します。お決まりのプロットはありますが、決して単なる1対1の恋愛が魅力の中心にあるわけではありません。この映画のように、大きな話の流れも、細かなネタ的な面白さも、さらにその世界観も楽しめる映画というのは、それほど多くないのではないでしょうか。

ところで、この映画の魅力の1つは、寅さんの口上です。その説得力は、素晴らしいものがあります。

説得力の要素として、エトス(ethos)とロゴス(logos)とパトス(pathos)の3つが挙げられることがあります。確か、アリストテレスによる分析であったと記憶しています。

ざっくりと申し上げれば、エトス(ethos)とは倫理・性格を意味し、ロゴス(logos)は論理を、パトス(pathos)は情熱を意味します。ちなみに、法律家は、常にロゴス(logos)を軸に議論することを生業としています。これが普段の会話にも知らず知らず影響しているようにも思います。勿論、実際に他人を説得する場合は、他の力、すなわちエトス(ethos)やパトス(pathos)も使いますが、基本は、ロゴス(logos)、すわなち論理です。

しかし、寅さんの話は、ほとんど全てパトス(pathos)によって成り立っているとさえ言えるでしょう。少なくとも、第1話「男はつらいよ」で、さくら(倍賞千恵子)に惚れている博(前田吟)に対する寅さんの台詞は、決して論理的ではありません。それどころか、前に言っていたことと180度真逆のことを言うことさえあります。しかし、観客も含めて誰も、変節してるとは、非難しません。決してロジックの優れた説得ではないのですが、聞いていて、ほれぼれする語りであり、いつのまにか引き込まれてゆくのです。それが、いったい何処から来るのかを探るのも、この映画の楽しみかもしれません。

全く、企業法務と関係なさそうな話題ですが、「説得」や「人を惹きつける魅力」という点では、ビジネスの世界にいる人も、この映画から学ぶことは、少なくないように感じました。まだ、ご覧になっていない方は、是非、ご覧になることをお勧めします。

2011年1月24日  6:30 AM |カテゴリー: その他 |コメントはまだありません

昨日も重要判例がありましたので、追加です。

3 「ロクラクII」事件最高裁判決

平成21(受)788 著作権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件 平成23年01月20日 最高裁判所第一小法廷 判決

原文はこちら(PDFファイル)

放送番組等を録画する機械は会社側において、録画の指示を利用者がするというサービスについて、私的使用を目的とする適法な複製なのか、違法な複製なのかが争われた事案です。すなわち、複製の主体は、録画する機械を管理している会社か、録画の指示を出している利用者かという点が争点です。

この点、本判決では以下のように判示しています。

放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において, テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」とい う。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が 自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容, 程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービ ス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても, 放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。
以上によれば,本件サービスにおける親機ロクラクの管理状況等を認定することなく,親機ロクラクが被上告人の管理,支配する場所に設置されていたとして も本件番組等の複製をしているのは被上告人とはいえないとして上告人らの請求を 棄却した原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」


また、次の金築誠志裁判官の補足意見も重要でしょう。

「親機の管理が持つ独自の社会的,経済的意義を軽視するのは相当ではない。本件システムを,単なる私的使用の集積とみることは,実態に沿わないものといわざるを得ない。」
「著作権法21条以下に規定された「複製」,「上演」,「展示」,「頒布」等の行為の主体を判断するに当たっては,もちろん法律の文言の通常の意味からかけ離れ た解釈は避けるべきであるが,単に物理的,自然的に観察するだけで足りるものではなく,社会的,経済的側面をも含め総合的に観察すべきものであって,このことは,著作物の利用が社会的,経済的側面を持つ行為であることからすれば,法的判断として当然のことであると思う。」



最後の補足意見は、結局このサービスは、海外留学中の息子が母親に「今度の○○っていうテレビ番組とっておいて。」「そのテレビ番組をDVDにして送ってよ。」というのとは、社会的、経済的に意味が違うでしょうということを言っているのだと思います。それは、わざわざ利用者のために、複製を容易にするための環境等を整備した上、番組情報の入力等の複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしているという実態があるからということになります。

この判決についても、昨日の「2」の「まねきTV」事件最高裁判決とともに、著作権が関連するサービスに大きな影響を与えるでしょう。判決に対する賛否も両方あり、これから喧々諤々の議論がなされると予想されます。

1月も、もう中旬から下旬に差し掛かろうとしています。

昨晩は、体調が少し優れませんでしたので、今朝の更新ができませんでした。今日は、今月出された2つの最高裁判例を紹介します。いずれも、実務に与える影響は大きいと考えます。


1 破産管財人は、労働債権について、支払いの際に源泉徴収義務を負わないとする最高裁判決

平成20(行ツ)236 源泉徴収納付義務不存在確認請求事件 平成23年01月14日 最高裁判所第二小法廷 判決

原文はこちら(PDF)

「破産管財人は,破産手続を適正かつ公平に遂行するために,破産者から独立した地位を与えられて,法令上定められた職務の遂行に当たる者であり,破産者が雇用していた労働者との間において,破産宣告前の雇用関係に関し直接の債権債務関係に立つものではなく,破産債権である上記雇用関係に基づく退職手当等の債権に対して配当をする場合も,これを破産手続上の職務の遂行として行うのであるから,このような破産管財人と上記労働者との間に,使用者と労働者との関係に準ずるような特に密接な関係があるということはできない。また,破産管財人は,破産財団の管理処分権を破産者から承継するが(旧破産法7条),破産宣告前の雇用関係に基づく退職手当等の支払に関し,その支払の際に所得税の源泉徴収をすべき者としての地位を破産者から当然に承継すると解すべき法令上の根拠は存しない。そうすると,破産管財人は,上記退職手当等につき,所得税法199条にいう「支払をする者」に含まれず,破産債権である上記退職手当等の債権に対する配当の際にその退職手当等について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負うものではないと解するのが相当である。


このほか、管財人は、管財人報酬については、源泉徴収義務がある旨、破産管財人の報酬に係る源泉所得税の債権は財団債権に当たる旨を判示しています。

「破産管財人の報酬は,旧破産法47条3号にいう「破産財団ノ管理,換価及配当ニ関スル費用」に含まれ(最高裁昭和40年(オ)第1467号同45年10月30日第二小法廷判決・民集24巻11号1667頁参照),破産財団を責任財産として,破産管財人が,自ら行った管財業務の対価として,自らその支払をしてこれを受けるのであるから,弁護士である破産管財人は,その報酬につき,所得税法204条1項にいう「支払をする者」に当たり,同項2号の規定に基づき,自らの報酬の支払の際にその報酬について所得税を徴収し,これを国に納付する義務を負うと解するのが相当である。

そして,破産管財人の報酬は,破産手続の遂行のために必要な費用であり,それ自体が破産財団の管理の上で当然支出を要する経費に属するものであるから,その支払の際に破産管財人が控除した源泉所得税の納付義務は,破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当である。したがって,弁護士である破産管財人の報酬に係る源泉所得税の債権は,旧破産法47条2号ただし書にいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」として,財団債権に当たるというべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第6号同43年10月8日第三小法廷判決・民集22巻10号2093頁,最高裁昭和59年(行ツ)第333号同62年4月21日第三小法廷判決・民集41巻3号329頁参照)。また,不納付加算税の債権も,本税である源泉所得税の債権に附帯して生ずるものであるから,旧破産法の下において,財団債権に当たると解される(前掲最高裁昭和62年4月21日第三小法廷判決参照)。」


この判決は、管財実務に大きな影響を与えるでしょう。管財人にとっては、基本的に、従来の実務の取扱いが認められたことになり、良かったのではないでしょうか。なお、この判決は、一般の企業法務には、全く関係ないといって、差し支えないと考えます。


2 「まねきTV」事件最高裁判決

平成21(受)653 著作権侵害差止等請求事件 平成23年01月18日 最高裁判所第三小法廷 判決

原文はこちら

送信可能化権については、以下のように判示しています。

「送信可能化とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力するなど,著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の方法により自動公衆送信し得るようにする行為をいい,自動公衆送信装置とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう(著作権法2条1項9号の5)。

自動公衆送信は,公衆送信の一態様であり(同項9号の4),公衆送信は,送信の主体からみて公衆によって直接受信されることを目的とする送信をいう(同項7号の2)ところ,著作権法が送信可能化を規制の対象となる行為として規定した趣旨,目的は,公衆送信のうち,公衆からの求めに応じ自動的に行う送信(後に自動公衆送信として定義規定が置かれたもの)が既に規制の対象とされていた状況の下で,現に自動公衆送信が行われるに至る前の準備段階の行為を規制することにある。このことからすれば,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。

そして,自動公衆送信が,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能を有する装置の使用を前提としていることに鑑みると,その主体は,当該装置が受信者からの求めに応じ情報を自動的に送信することができる状態を作り出す行為を行う者と解するのが相当であり,当該装置が公衆の用に供されている電気通信回線に接続しており,これに継続的に情報が入力されている場合には,当該装置に情報を入力する者が送信の主体であると解するのが相当である。

これを本件についてみるに,各ベースステーションは,インターネットに接続することにより,入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的にデジタルデータ化して送信する機能を有するものであり,本件サービスにおいては,ベースステーションがインターネットに接続しており,ベースステーションに情報が継続的に入力されている。被上告人は,ベースステーションを分配機を介するなどして自ら管理するテレビアンテナに接続し,当該テレビアンテナで受信された本件放送がベースステーションに継続的に入力されるように設定した上,ベースステーションをその事務所に設置し,これを管理しているというのであるから,利用者がベースステーションを所有しているとしても,ベースステーションに本件放送の入力をしている者は被上告人であり,ベースステーションを用いて行われる送信の主体は被上告人であるとみるのが相当である。そして,何人も,被上告人との関係等を問題にされることなく,被上告人と本件サービスを利用する契約を締結することにより同サービスを利用することができるのであって,送信の主体である被上告人からみて,本件サービスの利用者は不特定の者として公衆に当たるから,ベースステーションを用いて行われる送信は自動公衆送信であり,したがって,ベースステーションは自動公衆送信装置に当たる。そうすると,インターネットに接続している自動公衆送信装置であるベースステーションに本件放送を入力する行為は,本件放送の送信可能化に当たるというべきである。」


そして、公衆送信権侵害については、以下のように判示しています。

「本件サービスにおいて,テレビアンテナからベースステーションまでの送信の主体が被上告人であることは明らかである上,上記(1)ウのとおり,ベースステーションから利用者の端末機器までの送信の主体についても被上告人であるというべきであるから,テレビアンテナから利用者の端末機器に本件番組を送信することは,本件番組の公衆送信に当たるというべきである。」


この判決がインターネットビジネスについて、どこまでがこの判決の射程となるのかは分析もしておりませんし、不明ですので、今回は紹介のみにとどめさせていただきます。ただ、書籍配信ビジネスや動画配信ビジネスについても影響する可能性は否定できません。この判決については、これから評釈が多く出てくると思いますので、それらにも注目した方がよいでしょう。

多くのベンチャー企業の経営者の話を聞かせていただくと、「何もしない」ことによるリスクは大きいことをよく耳にします。

変化の激しい昨今のビジネス環境においては、「挑戦するリスク」より「何もしないリスク」の方がずっと大きいという話です。

例えば、一橋大学イノベーション研究センターのセンター長米倉誠一郎教授と板倉雄一郎さんの共著である『敗者復活の経営学 』という本には、「チャレンジを続ける人だけが成功する」(表紙)とか、「変化が激しいいま、「挑戦するリスク」より「何もしないリスク」の方がずっと大きい!!」(帯)という文言が並んでいます。

このような視点でネットで検索していると、農業の世界でも、同じ文言で議論されている方がいました。

涌井代表のブログ『農業維新』 : 「『何もしないリスク』と『挑戦するリスク』」
(中略)
 一昨年のリーマンショック後の経済不況を受け、協会の主力業務である白米営業をやめて米の加工食品の営業に特化した決断が今の協会の原点だ。

 この一年間、協会がそれまでの営業を続けていたらどうなっていたのだろうか。今とは全く違う協会の姿があるに違いない。

 人生にも会社にも、常に分岐点がある。そして、常にルビコン川を渡る決断をする時がある。その決断をするか否かによって、それぞれの人生や会社の方向性が全く異なる。人間も会社も、「何もしないリスク」と「挑戦するリスク」のどちらかを選択する時には、「挑戦するリスク」を選択したいものだ。

 国の新しい農業政策も、農家に対して選択を求めている。国の政策に参加することもしないことも自由ですよ、という選択である。

 農家は、まさに、新しい農業政策に「参加しないリスク」と「参加するリスク」を選択する時が来たのではないか。
(中略)
(引用終わり)


正直なところ、「何もしないリスク」というのは、激しく移り変わる業界(IT業界等)だけに、主に適用されるものであり、普通は、何もしない方が安全だろうと思っていたのですが、必ずしもそうではないようです。農業の世界でも、その他の世界でも、「何もしないリスク」は、想像以上に大きいのかもしれません。

勿論、ここでいう「挑戦する」とは、無謀な挑戦ではなく、よく考え、可能な限りリスクを下げる努力をした中でのチャレンジを意味し、無謀な経営や法的倫理的な挑戦をする経営を意味するわけではありません。



ところで、このビジネスの世界では、ある種、当たり前の「何もしないリスク」が「挑戦するリスク」より大きいという考え方は、法律家の取締役の責任についての判断枠組みに馴染みにくいのかもしれません。

一般に、取締役に対して作為義務(何かをすべき義務)が認められること可能性はそれほど高くなく、それよりは、無謀な買収等により会社に損害を与えた場合に、取締役が責任追及されることの方が多いのが現実です。昨年7月15日のアパマンショップHD事件最高裁判決(PDFファイル)は、まさにその事例であろうと思います。(勿論、従業員や第三者等の身体・生命・財産等の権利に対する侵害が生じることが予想可能であったり、現に発生している場合等には、相応の安全配慮義務が発生する等、取締役が「何もしない」ことによって、責任が生じる可能性は十分あります。)

昨年のエントリー「経営判断原則に関する最高裁判決について」では、この点について、少し検討しました。会社法のスタンスとしては、経営者の誠実な挑戦については、できる限り自由にできるようにして、「挑戦する」ことに萎縮効果が及ばないように、そして、挑戦することに取締役個人的に課され得る法的なリスクが大きいのであれば、「何もしない」方がいいという結論になってしまわないように、十分配慮する必要があるように思います。

この点、弁護士は、多くの場合、挑戦した場合のリスクをお伝えすることが、どうしても多くなりがちであり、その意味では経営者に疎まれがちなところがあります。ただ、多くの企業法務の弁護士は、それはそれとして、よりリーガルリスクが低い形で、挑戦し続けてほしいと思っていることも確かであり、そのあたりの対話は、これからも、まだまだ弁護士サイドも経営者サイドも工夫する余地があるのかもしれません。

2011年1月19日  6:30 AM |カテゴリー: ベンチャー・ビジネス, 企業法務 |コメントはまだありません

旬刊商事法務2011年1/5-1/15合併号No.1920は、昨今の会社法制にまつわる話題が盛りだくさんでした。

特に、コーポレート・ガバナンスを中心とした以下のトピックについては、繰り返し、様々な立場の方から議論されていました。

・多重代表訴訟(その他、親子会社に関する規律の問題)
・監査役の監査機能
・社外取締役義務づけ論や要件(その他、取締役会の監査機能)
・資金調達にかかる企業統治

おそらく、これらは、会社法制の見直し論議が、学者や法曹関係者のみならず、経済界、企業からも関心の対象となっていることの証左であろうと思います。

この中で、いくつか気になった点としては、〜〜の制度を導入することにより、ガバナンスが向上し、企業価値を高めるという視点があり得るという(主に学者の先生方からの)意見です(p17)。これに対し、経済界は、日本企業の業績不振は、日本経済そのものの低迷によるものしかなく、日本企業のガバナンス体制や会社法制の不備に原因があるわけではなく(p93)、萎縮効果や国際競争力の低下を招く可能性さえある(p14)と反論しています。

この意見の対立は、立法事実の有無や立法の効果といった事項をさらに深く検討すべきという話もあるでしょうけれども、そもそも、もっと根本的な発想が異なっているようにも思えます。前者の制度導入によってガバナンスが向上し、それにより企業価値が高くなるという発想は、どちらかといえばパターナリスティックな発想、すなわち国家が後見的に制度を改善していくことにより、法律を遵守させて、「正しい」企業統治のあり方を実現させていくという考え方であるように思います。

一方、後者の立場は、民間企業は、国家にガバナンス体制について、干渉されるのを好まないという発想が根本にあるように思います。有り体に言えば、「ガバナンスだけでは、お金を稼げない」「最適解はこちらで考えるので、口出ししないで欲しい」ということもあるでしょうし、必要なルールは「遵守するか、遵守しない理由を開示するか(Comply or Explain)」であり、あとはステークホルダーの自己責任とすれば良いという発想があるように思います。こちらの考え方に立つと、開示すべきであったのに開示しなかったことや、虚偽の開示については、公権力が介入して、罰則を与えたり、市場から追放したりするべきであるが、情報を開示している限り、その情報を前提に採った行動については、自己責任という考え方であろうかと思います。そして、優れたガバナンス制度が企業価値の向上をもたらすのであれば、市場原理によって、自然とその制度が生き残るであろうという発想も伴っていると考えます。

このように会社法制の変更、特に、多重代表訴訟や社外取締役義務づけ論といった制度の導入については、上記の根本的な発想の対立があることを認識しないと、いつまでも、「〜〜制度は、(ガバナンスが向上するから)企業価値が向上する。」「いや、(萎縮効果等があるので)企業活動が停滞する。」といったある種の水掛け論が続くように思います。会社法を改正して実現すべきことであるのか、上場企業が求められる指針レベルとして導入するのかに関わる部分でもあります。まず、どのような思想に基づくのかを議論しないと、つぎはぎだらけの会社法になってしまうのではないでしょうか。

2011年1月18日  6:30 AM |カテゴリー: 企業法務 |コメントはまだありません

今回は、ほとんどの人にとって、「何をいまさら」と思うであろう話をしたいと思います。

それは、中小企業やベンチャー企業においては、売上の管理は、社長の仕事ということです。

これは、多くの社長にとって、当たり前の話でしょう。なぜなら、かなりの数の中小企業やベンチャー企業では、社長が最大の営業マンであり、社長自身が、請求書や回収状況をチェックし、売掛先の状態の把握、顧客の性質や割合、割引の有無や内容、取引が生じることとなったきっかけ、売掛金回収期間、回収できなかった売掛の割合やその理由等を把握しているからです。

しかし、時折、社長が、営業や売掛の管理に関する業務について全くの人まかせという会社に出会います。社長が大企業の研究・開発部門出身である場合や、創業者の二代目である場合に、比較的多いように思います(勿論、そうでない方も多いです。)。以下の売掛にかかる業務について、どこまで把握しているでしょうか。

1 請求書の内容を把握しているか。
2 顧客リストをいつでも確認できる状態にあるか。
3 主な売上は、どの顧客、どの商品、サービスから生じたものであるか、その他の売掛に関する情報を把握できているか。
4 請求書の内容、契約の内容、会計上の処理が一致しているか。
5 不履行となったままの売掛は、どのように処理するか、対処方法が明確になっているか。
6 回収作業が放置されたままの未回収債権はないか。
7 不履行となった債権がある場合、その原因を分析し、契約締結時の業務にフィードバックできているか。


上の3つは、当たり前の業務です。創業から、かなり長い間、全ての請求書に社長が目を通している会社も少なくないでしょう。決して、社長が人任せにしてはならない業務の1つだと思います。

4は、特に、代理店契約等が絡んでいる場合に、生じがちです。代理店に仲介業務を依頼しているのか、卸をしているのかが異なると、法的な意味も、会計上の処理も全く異なります。しかし、意外と区別されていないことが少なくありません。代理店に仲介業務を依頼している場合は、最終顧客(代理店に紹介してもらい、契約することとなった顧客)との間に直接契約が成立しているはずです。法的責任(物を引き渡す責任や瑕疵担保責任等)も当該最終顧客に対し直接することになります。代理店には、仲介手数料のみが支払われるのが通常であり、お金の流れが代理店経由であっても、売上は、最終顧客との間で発生した売上が全額計上されるはずです。一方、代理店に物を卸している場合は、その代理店との間の契約しか成立せず、最終顧客との間で契約は成立しません(別途、保守契約や保証契約がある場合は、別です。)。この場合、卸価格が売上となるはずです。

5についても、決まっていないことが少なくないように感じます。特に、未回収の兆しがあれば、早め早めの行動が肝要です。早目に電話やファックス、メール等で、督促するのが基本であり、それでも支払われないようであれば、関連する資料を全て持参の上、弁護士等の専門家に依頼します。そして、回収の可能性を踏まえて、その金額、相手方の性質、会社の方針(コストに見合わない回収はしない、費用倒れになっても会社の評価の問題があるので徹底的に回収する等)等に応じて、最終的な処分方法を決めます。具体的には、内容証明郵便による請求、支払督促、訴訟提起、担保の実行等が考えられます。

6については、放置していることによる様々な問題を知る必要があります。税務上、未回収債権について費用化できず、税務上の負担が大きくなる点や、利益率を押し下げる点をよく理解しておく必要があるでしょう。利益率5%の会社での100万円の未回収は、さらに2000万円の売上に匹敵します。2000万円の売上確保の努力が100万円の未回収によって、不意になるのです。

7も重要です。未回収に陥ることを防ぐために、どうすればよいか、フィードバックする必要があります。もちろんビジネスモデル、特に入金のタイミングや方法によっても、大きく異なりますので、一概には言えません。常に、現金で回収できるコンビニエンスストアであれば、契約が成立したものの未回収となることはほとんどあり得ませんが、万引きを防ぐ手だてを講じることは重要でしょう。一方、webサイト構築業務等であれば、先に半額もらうことや、契約書又は契約書に準じるような書面やメールの取得等、証拠化の方法を考えるべきでしょう。契約書や発注書の見直し、担保取得の可能性、与信管理に応じた対応基準の策定、前金や作業途中での入金等の方法も検討するべきでしょう。

これらの内容は、冒頭で申し上げたように、ほとんどの人にとって、「何をいまさら」ではあると思いますが、会社経営にとっては非常に基本的であり、重要な内容です。また、既に、売掛の管理を励行されている社長や役員の皆様も、是非、見直すきっかけを作っていくと良いかと思います。

なお、実際に、売掛の未回収が生じた場合や、回収できない債権の額を減らしたい、契約書や契約締結の過程を見直したいという方は、当事務所か、企業法務に詳しい弁護士まで、ご相談ください。

2011年1月17日  6:30 AM |カテゴリー: ベンチャー・ビジネス, 企業法務 |コメントはまだありません
 
   
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