森法律事務所
トップページ 事務所紹介 業務内容 弁護士紹介 採用情報 所在地 お問い合わせ
 


前回のエントリー「解除条項について考える(1) ~意外と取扱いが難しい~」の続きです。

今回は、事業譲渡契約の解除と、表明保証条項は解除権と結び付くかという点を考えてみたいと思います。

■ 事業譲渡契約

事業譲渡契約は、基本的には、「事業」を売り買いする契約です。したがって、売買の対象が「事業」であるだけで、売買契約と同様に、解除条項は有効であるように見えます。しかし、実のところ、事業譲渡契約の解除は、ペナルティーとして脆弱なことが多いといわざるを得ません。

事業譲渡契約は、その履行(=事業譲渡)において、第三者を巻き込みます。とくに、取引先の移転は、相手方の同意を得て、契約の地位の移転を移転する行為ですし、従業員の異動は、雇用契約の合意解除+新規雇用という形をとります。したがって、事業譲渡契約の解除は、再び相手方から契約移転の同意を得る必要や、新規に成立した雇用契約を合意して解除する必要があります。

契約の相手方が契約移転に応じない場合や、事業の譲渡人が再度の雇用に応じない場合は、譲受人側に契約が残り続ける可能性がありますので、遡及効という効果が事実上、達成できず、解除がペナルティーとして意味をなさないことになってしまいます。それどころか、譲受人が解除権を行使したにもかかわらず、自らの原状回復義務が履行できない等という状況も起きかねません。

譲受人側が解除を企図しても、譲渡代金は取り戻せるかよくわからない上、従業員から解雇権の濫用等として労働問題に巻き込まれるリスクを負うかもしれない・・・という状況が付きまとう可能性があります。

この点は、M&Aのスキーム選択においても意外と見過ごされがちですので、注意が必要です。

■ 表明保証条項

表明保証は、M&A関連の契約や投資契約等、多くの契約に規定されています。ただ、表明保証違反は、直ちに解除権の発生につながるわけではないということが見過ごされがちです。

そもそも、表明保証条項は、ある当事者の契約締結時の「状態」「事実関係」を表明し、保証したものであり、「~します」という約束ではありません。法律的に表現するとは、債権債務関係を規定するものではないということになります。したがって、「Xは、Yが本契約のいずれかの条項に違反した場合、ただちに本契約を解除することができる。」と規定していても、表明保証違反の事実の発覚が、ストレートに、この「いずれかの条項に違反した」に該当するかは微妙です。

民法では、このような問題は、債務不履行(契約違反)の問題としてとらえるのではなく、意思表示の瑕疵・欠缺(けんけつ)の問題として、錯誤や詐欺として処理することが想定されています。しかし、錯誤や詐欺により、契約(にかかる意思表示)を無効や取消しと主張するのは、ハードルが高いことが多いです。そこで、表明保証条項を規定した場合は、「表明保証に反していたことが判明したこと」を解除権発動のリストに加えておくことが望ましいと考えます。



これまでに挙げた例の他にも、解除権が問題となるケースとしては、軽微な義務違反と判断されてしまうことへの対応 (軽微な債務不履行は、解除権が発生しないことがあり得るため、当事者にとって当該債務の不履行が重要な意味を持つ場合は、特に解除権が発生することを明確にしておくべき)や、破産等の解除権の発生要件としても否認権の対象となり得ること等の留意点があります。

契約を結ぶ場合は、契約違反時のペナルティーを意識することが重要なのは、前回申し上げた通りです。ただ、ペナルティーとして「解除権」を念頭におく場合には、そもそも解除に意味があるのか、他の法理で解除が実現できない可能性はないか、解除権と結びついているか、等に注意しながら御検討下さい。

2010年9月30日  5:30 PM |カテゴリー: 企業法務 |コメントはまだありません


今日は、お知らせのみです。

池銀キャピタル様の御好意で、2010年10月26日(火)午後5時から、池銀キャピタル様にて、「IPOを目指す会社の法務上の留意点 ~反社会的勢力排除を中心に~」という内容で、講演させていただきます。講演後は、交流会もございます。

第65回池銀キャピタル勉強会
日時:2010年10月26日(火) 17:00~19:00
場所:大阪市北区茶屋町18番14号大阪梅田池銀ビル12階ホール


タイトルは、上記のようになっていますが、IPOを目指す会社だけでなく、IPOやM&AでのExitを目指している会社、ベンチャー・キャピタルからの資金調達を考えている会社、既に資金調達に成功しハイ・スピードの成長を目指している会社に加え、こういった会社に投資しておられる投資家の皆様に、お役に立つ内容にする所存です。

前半では、総論及びビジネス上の法務の留意点、後半では、投資家目線と事業会社目線のそれぞれから反社会的勢力排除を考えるという内容にする予定です。

IPOでは、有価証券届出書やIの部の作成が必須ですし、M&Aでもデュー・ディリジェンスを受けなければなりません。また、安定的に成長するためには、予め法務トラブルが起きないように予防することが非常に重要です。これらの観点から、特に法務的に留意しておくべき点を重点的に扱いますので、ご興味のある方は、是非、お越しください。

お申込みにつきましては、池銀キャピタル様の担当者から案内をいただいている方はいつも通りで結構です。参加されたことのない方につきましては、私までご連絡いただければ幸いです。

メールアドレスは、contact @マーク ymmlaw.jp です。@マークの部分を通常の@にして下さい。

数多くの皆様のご参加をお待ちしています。

【追記:10/1】

※ 10月26日(火)の講演は、事前のエントリーが必須となります。エントリーをされていない方は、事前に、当職から池銀キャピタル様に連絡する必要がありますので、必ず御連絡いただきますようお願い申し上げます。当日、エントリー無しにお越しになった場合、入室できない可能性もありますので、御留意下さい。

2010年9月29日  6:00 PM |カテゴリー: 未分類 |コメントはまだありません

契約実務の現場では、契約が成立した場合にその条項は、(i)裁判所が有効と判断し、最終的に執行につながるか、(ii)仮に、執行にまでつながらなくても、事実上の交渉力に転化できるか、ということを意識しながら、条文作成やチェックを行わなければなりません。

実務的には、「破った場合のペナルティーが明確でない条項はあまり意味がない」 (∵執行によって相手にダメージを与えられなければ意味がない)、 「無効かも知れなくても、入れておいても損はない」 (∵有効だったら御の字で、無効の可能性があっても有効ならばダメージを受けるという状況そのものにより交渉力を得られるだろう)等と考えながら条文構造を検討します。この話は、会社の法務を担当されている方は、よく御存じかと思います。

契約のペナルティーの代表は、解除と損害賠償請求です。今回は、この解除条項を取り上げたいと思います。

解除条項は、基本的には、契約しなかった状況に戻る(戻す)義務が発生することを意味します。法律的には、既に履行した債務については(債権者に)原状復帰の義務が発生し(遡及効)、未だに履行されていない債務については(債務者が)履行義務から解放されるのが原則です。既履行債務の巻き戻しの意味がないタイプの契約は、将来において、互いに履行義務から解放されるという効果のみ発生する(将来効)ことになります(賃貸借契約や委任契約等)。

解除にはこのような効果があることから、一般に契約違反があると、損害賠償請求できるかということと並んで、解除できるかということが当事者の大きな関心事になります。そこで、様々な契約書では、解除条項が定められ、解除権が発生する場合のリストや無催告特約が規定されることになります。

この解除条項は、典型的な契約では、かなり威力を発揮します。売買契約では、「お金払わないなら、物を返せ!」とか、逆に「物を引き渡さないなら、お金返せ!」と言えますし、賃貸借契約であれば「賃料を払わないなら、部屋から出ていけ!」と言えることになります(借地借家法等で解除権に制約が生じることはあります。)。

とはいえ、なんでもかんでも、契約違反→解除権発生と規定することが正しいわけではありません。解除条項は、先ほど述べた「ペナルティー」として有効に機能しない場合があり、有効に機能しない(or有効に機能しない可能性が高い)にもかかわらず、解除条項が規定されているケースや、「ペナルティー」を解除条項に頼り切っているケースが散見されますので、整理してみたいと思います。

■ 秘密保持契約

秘密保持契約に違反した場合、契約解除は全く意味がありません。考えていただけるとわかりますが、「Xは、YがXに提供した秘密を保持しなければならない」との規定をXが破った場合、すなわちXが秘密を漏えいした場合に、秘密保持契約を解除しても、意味がありません。秘密保持契約を解除しても、今後のXの秘密漏えいが適法化されるだけです。これでは、ペナルティーのつもりが、逆に適法化という結果になってしまい、望ましくありません。

秘密保持契約のペナルティーとしては、解除条項は意味がありません。仮に規定するのであれば、秘密保持契約は、他に締結した契約(共同開発契約、業務委託契約等)の付属又は前段階として締結されることが多いですので、秘密保持契約違反の場合、当事者間で締結している他の契約を解除できる旨を規定することが考えられます(他の契約を解除する場合でも秘密保持契約・条項自体は存続するようにしておく等の設計が必要)。

なお、余談ですが、秘密保持契約は、損害賠償請求条項もペナルティーとして機能しにくいという特徴があります。秘密と損害の因果関係が立証しにくい、損害額が算定しにくいというのが、理由です。したがって、秘密保持契約では、(i)損害の範囲を幅広く定めておくとともに、(ii)運用面において、秘密が漏えいしない体制(秘密に触れる人を限定する、本当に重要な部分は秘匿しておく等)を出来る限り築くことが重要となってきます。

■ 投資契約

投資契約違反の契約解除も、難しい問題があります。

そもそも投資契約とは、何でしょうか。

投資契約とは、投資家が投資先企業に対して出資し、株を引き受ける場合に、投資家と投資先企業の間で締結される契約です。典型的には、ベンチャー・キャピタルがベンチャー企業に出資する場合に、締結されます。契約内容は多岐にわたりますが、報告義務、誓約事項、取締役選任権、表明保証や投資家の先買権等があります。

投資先企業が投資契約に違反する行為をした場合(たとえば、契約上、定款変更は投資家の事前承諾を得なければならないとされていたにもかかわらず、投資家の事前の承諾なく、定款を変更した場合)、解除権は、ペナルティーとして有効でしょうか。

実のところ、投資契約も秘密保持契約と同じく、投資家にとっては、投資先企業に守ってもらわないと意味のない契約ですので、将来効=今後、投資契約を守らなくてよいよ、というのは、全く意味がありません。

では、遡及効は、どうでしょうか。すなわち、新株の引き受けを解消するというペナルティーです。これは、そもそも会社法的に無効の可能性が高いです。一度、発行されてしまった新株は、後から、取り消したり、無効を主張することは、非常に難しいのです。錯誤や詐欺・脅迫を原因とする場合であっても、株主となった日から1年又は株主としての権利行使後は、無効又は取消しの主張ができないとされています。したがって、解除を原因とする遡及的無効も認められない可能性が高いでしょう。

したがって、投資契約に解除条項を規定しても意味はほとんどありません。実務では、解除条項の代わりに、投資家の株式買取請求権を規定します。投資先企業が投資契約に反すると、投資家が保有する株式を買い取らせる権利を株式買取請求権といいます。これで事実上、解除と同じ効果を生み出す意図があります。ただ、この株式買取請求権も行使すると、投資先企業にとっては自己株式の取得になってしまうことから、自己株式の取得規制という壁を乗り越えなければなりません。そのため、経営株主も買取義務者に入っていることが多いです。

((2)に続く予定)

2010年9月28日  3:30 PM |カテゴリー: 企業法務 |コメントはまだありません

表題の議論は、形やテーマを変えて、度々耳にするもので、いま起業を考えている学生にとって関心の高い議論でしょう。

「起業するのに、学位を取る必要があるのか、大学に行く必要があるのか」というテーマです。

具体例としては、マイクロソフト社の創立者であるビル・ゲイツ氏やFacebookの創立者であるマーク・ザッカーバーグ氏は、ハーバードを中退して、会社を設立し、億万長者になったといったものが挙げられるでしょうし、日本でもライブドア社の堀江貴文氏は東大中退です。古くは、松下幸之助さんを始めとする日本のアントレプレナーには、大学にすら通っておられない方も少なくありません。

Professor Says Michael Arrington Lives In An Ivory Tower (TCTV)


ここに引用させていただいた動画及び記事は、「大学教育の価値」と「優れた起業家への道」の関係についての議論です。論者は、Michael Arrington氏 (Stanford Law School出身の弁護士であり、TechCrunchのファウンダーでもあるアントレプレナー)とVivek Wadhwa氏 (UCバークレー客員教授、ハーバード法科大学院上級研究員、およびデューク大学常任理事であり、自身も2つの会社のアントレプレナー)のお二人の間で交わされています。

私自身は、


会社を作るためには、経理、マーケティング、知的財産権、会社法などの知識を理解しておく必要がある。ビジネスの世界に入ってしばらくするまで、君たちは契約交渉のやり方や、人との接し方、従業員の管理や育成、そして顧客に売る方法を知らない。さらに重要なのは、自分が始めたことをやり遂げることの大切さを学ばない学生は、成功できないことだ ― それには忍耐力と決断力が必要だ。

私から学生たちへのアドバイスは、教育は、受けられる間はできるだけ受けよ。最低でも学部、可能なら修士の学位を修了すること。(引用終わり)


というVivek Wadhwa氏の意見に賛成する者で、私自身は、体験も踏まえて、大学教育に価値があると信じています。


勿論、学位なぞに拘わらずに成功している起業家を否定するものではありません。むしろ尊敬の念を覚えています。だからといって、学生から「起業したいのですが、中退した方がよいでしょうか」と質問されても、基本的には「No」と回答するでしょう。まず第一に、「学位なぞに拘わらずに成功している起業家」は、そもそも「起業したいのですが、中退した方がよいでしょうか」等という質問はしないでしょうし、その点で迷うくらいならやめておけばよいと考えます。また、「学位なぞに拘わらず、成功している起業家」がみな大学教育を否定しているわけでもなく、それ相応の知識や経験等を他の手段で身につけているケースも少なくないからです(例えば、本田宗一郎さんは、浜松高等工業学校(現:静岡大学工学部)機械科の聴講生でした。)。

先程の両者の議論で、より重要で、興味深いのは、

A piece of advice both panelists agreed on was to never forget the importance of ethics. As Arrington said, “Never hurt anyone to benefit yourself…but do something amazing, however you define it, and change the world”.


という部分です。すなわち “never forget the importance of ethics”(倫理の重要性を忘れるな!)ということに異論はなかったということです。どこかの国の検察官に、口を酸っぱくして、何度も繰り返したい内容です。。。(どこかの国の検察官についての話は、長くなりそうなので、いずれまた。本件では、学校教育+司法修習を受けたからといって、それだけでは倫理的な行動を維持し続けることはできないことが立証されてしまいました。)


私個人としては、起業こそが経済を下支えしており、新たな雇用を生み出すものであると考えていますし、起業を活性化することに貢献することを自身の目的としています。そして、起業には、志や目標、理念といった部分と、会計や法律等の知識や営業や交渉等の技術といった部分の両方が車の両輪のように必要であり、且つ、その両方において、倫理的であること、利益のために誰かを傷つけないことという土台が必要であると考えています。

最後は、大学教育の必要性から少しずれてしまいましたが、上の議論からの私の雑感です。

2010年9月27日  2:00 PM |カテゴリー: ベンチャー・ビジネス, 企業法務 |1件のコメント

TechCrunchに、 「二つに分かれたベンチャーキャピタル業界: Webとクリーンテクを比較すると…」 という記事がありました。

この記事では、資本があまり必要なくなったweb関連企業への投資と、やはり多くの資本を必要とするクリーンテク企業への投資は、様相がたいぶ違ってきた旨を指摘しています。同記事では、2010年1月から8月までのデータを集計して、対比しており、その内容は以下の表のとおりです。(元となったデータには、不十分な点があることは同記事も認めています。あくまでも参考程度ということです。)


Cleantech Web
資本 多く必要 それほど必要としない
VCの役割 資金の提供 コネやアドバイス、取引をまとめる手腕
投資金額 $1.87B $1.35B
投資件数 61件 262件
投資金額前年同期比 77%増 8%減
1件当たり平均投資金額 $30.7M(26億950万円) $5.2M(4億4200万円)
シードラウンドの投資金額の平均 $1,064,600(9049万円) $534,132(4540万円)
買収でのExit 4件 61件
買収の平均サイズ $181,575,000(154億3387万円) $63,152,269(53億6794万円)
(注1) 投資金額以下のデータは、2010年1月から8月までの米国のものです。
(注2) この表は、記事内容をまとめたもので、独自に集計したものではありません。
(注3) 円換算については、1ドル85円で計算したものを表記しています。

クリーンテク系の企業への投資は、専門的な知識(特にサイエンスの中身及び業界の製品化に至るまでの進行度合い等)が必要とされることが多く、投資家も、その業界にある程度精通していなければならないケースも少なくないです。日本でも理系出身のキャピタリストが増えてきたように思います。したがって、これまでも通常のベンチャー投資とは分けて考えられることも少なくありませんでした。ファンド自体、別建てになっていることもあります。このタイプの企業では、特許を始めとする知的財産権のコントロールが重要であり、開発のための基盤、ライセンス及び人材が必要とされ、初期に膨大な研究開発費を計上することが多いと思われます。

一方で、web系の会社は、初期に必要とされるのは、資本=お金ではなく、メンバーであり、ネットワークであり、優れたアイディアでしょう。クラウド化やサーバー代が限りなく安くなってきていること等が背景にあると思います。知的財産権は著作権や商標権にからんで登場することはあっても、それ以上、重要ではなく、優れたアイディアと他の追随を許さないスピードが必要とされるように思います(特に、フリーミアム系のビジネスモデルでは、スピードが重要であると思います。)。そのため、初期からマーケティングコストが必要となり、かつ少ないコストの中でアイディアを駆使した展開が求められるように思います。

これから起業される会社におかれましては、自らがどちらのタイプの会社であるかをご判断いただいた方がよいかもしれません。例えば、バイオ系で初期に要する資本が多い場合には、上の表のクリーンテク系だなという具合です。そして、その上で、資本政策策定やベンチャー・キャピタルに期待する内容についての参考にされてみては如何でしょうか。

2010年9月24日  2:31 PM |カテゴリー: 未分類 |2件のコメント


みなさんが何かの事業を行うために、会社を設立するとき、会社の未来にどの程度、想いを馳せるでしょうか。


理念や志、経営戦略、ビジネスモデル、事業ドメイン、マーケティング、資金調達、、、etc.起業家や経営者が考えることはたくさんあります。

それらは極めて重要なことばかりであり、実際に起業家や経営者は考えていることでしょう。

しかし、会社が順調に成長した場合、どのような未来になるかまで考えられているケースは、多くないように感じます。

事業会社の未来は、基本的に以下の4つしかありません。

① 上場(IPO)
② 買収される(M&A)
③ 事業承継(相続)
④ 破産・清算(事実上の破綻も含む)

そして、この4つの未来のどれを志向するかは、予め決めておいた方がよいでしょう。もちろん、状況に応じて、途中で変わることは十分ありうることですので、実際には、「現時点では」「ざっくりとしたイメージとして」という形になることが多いでしょう。また、ビジネスモデル等の経営戦略によってどれを志向すべきかということが自ずと決まる場合もあり得ます。

①の上場(IPO)とは、基本的には「公の会社になる」ということです。いつでもだれても会社の株式を買ってもよいという状態になりますので、株式市場に対して常に誠実な態度と取らなければなりません。上場には、優れた人材が集まりやすい、市場から資金を調達することができる、上場前からの株主やストック・オプション保有者が上場とともに個人資産を形成できる、会社の事業継続が大株主の相続問題に巻き込まれにくい(全く巻き込まれないわけではない)等といったメリットがあります。一方、重要な会計情報等を開示しつづけなければならないという義務が課されます。したがって、ある程度の規模であることや将来の企業成長が予想されることが求められますし、継続開示に耐えうるような社内体制の整備も求められます。社長の地位は、多くの株主に信任が得られそうな人物のなかから現社長や取締役会が選ぶことになります。

②の買収(M&A)とは、基本的には「どこかの会社のものになる」ということです。上場会社の子会社になる場合は、その上場会社の傘下に入るということを意味し、事実上の上場に近い効果もあります。100%子会社になる場合や全部の事業の譲渡の場合では、既存の株主は、これまでの株式に代わって現金や株式を手にすることになります。社長のイスは、親会社の意向で決まります。

③の事業承継(相続)とは、「非公開会社で居続ける」場合です。多くの日本の中小企業がこれに当てはまります。この場合、「次の社長はだれか」という事業経営の後継者の問題と、「大株主の保有する株式をだれが相続するか」という相続問題の両方を解決しなければなりません。

④の破産・清算は、最初から志向する人はいません。夜逃げでからっぽに幽霊会社になるケースもこれに含まれます。破産の場合は、社長も併せて個人破産するケースがほとんどです。利益を生み出す事業が残っている場合は、民事再生や会社更生という手段がとられることもあります。

①から③までのどれを志向するか、明確になっていると、ファイナンスの戦略だけでなく、社内体制の準備もできます。チャンスがあれば、上場することや買収されることを考えている場合、いつ提案があっても、提出を求められた資料を提出できるように資料を整理しておくでしょう。M&Aの場面では、事業の継続性についてのリスク高い場合、売却価格が下がってしまいます。普段からの社内体制の整備しだいで、相当の金額の差になるかもしれません。将来、①のIPOや②のM&Aを考えている場合は、早い段階から弁護士に相談して、ビジネスモデルや契約書、各種議事録をチェックしてもらうことが、外から見た会社のリスク評価を下げることに繋がるのです。

①でも②でもない場合は、会社の主要株主の株式が相続されることに想いを馳せておかなければ、主要株主が亡くなった後に、会社が相続問題に巻き込まれるリスクが高くなります。株式は、法定相続されると、相続人間で共有されてしまいます。100株を保有する株主について相続が生じ、相続人が、妻1人、子2人の場合、その100株は、妻50株、子25株ずつとなるのではなく、その100株総てが共有となってしまうのです。こうなると遺産分割協議か株式の権利の行使者を誰にするかの合意がまとまるまで、原則として権利行使できなくなります。遺言でその株式を誰に相続するかを予め決めておくことが会社を継続することに繋がります。

これから起業される方、起業して間もない方におかれても、上記の①から③までのどれを志向するのか、頭の片隅にでも置いていただけると、よいのではないでしょうか。

2010年9月22日  8:30 AM |カテゴリー: 企業法務 |コメントはまだありません



先日の司法試験の発表の後、大杉教授のブログ“おおすぎ Blog”のエントリー「新司法試験合格発表・雑感」に、触発されて、このエントリーを書きました。


大杉教授の内容の以下の部分です。


そもそも、法とは、正義とは・・ って考えすぎるとドツボに嵌まる危険もありますが、(1)の「論点を深く考える」際には、「そもそも良い法律論(解釈論)、悪い法律論って、どういうものなのだろうか」という、少し高い視点を持つことが有用ではないでしょうか。


私は、大学時代に、政治思想史をほんの少しだけかじっただけの市井の法律家ですが、司法試験を受ける際に、その後の実務生活で法律について考える際に、よく立ち返る概念があります。大杉教授は、サンデルをお薦めされておられましたが、私は、職業としての政治 (岩波文庫) が参考になった記憶があります。

この本は、政治家にはどのような人がなるべきかという点について、ウェーバーが1919年にミュンヘンにて講演したものを書籍化したものです。第一次世界大戦後のドイツでの講演という背景を理解して読む必要のある文献ですが、古典の中では非常に読みやすく、定価310円で買えますので、お薦めです。内容的に、司法試験と露ほども関係なさそうな文献ではありますが、私が影響を受けたのは、この本に出てくる「国家」の概念です。

大学生時代に受講した初宿教授(初宿正典教授。憲法、カール・シュミットの専門家)の「国法学」という講座では、「国家」の意味や要件は、論者や時代や文脈によって大きく異なり、100以上の定義があると教わりました。「国家」という概念は、それ自体に大きな意味があるものではないため、多くの定義があっても、不思議はありません。私も、ウェーバーの「国家」の定義のみが絶対に正しいというつもりは全くないです。ただ、この「国家」の概念は、法律・法規範というものを考える上において、極めて重要な概念ではないかと今も考えています。

さて、その「国家」の概念とは、以下のものです。


国家とは、ある一定の領域の内部で―この「領域」という点が特徴なのだが―正当な物理的暴力行使の独占を(実効的に)要求する人間共同体である、と。国家以外のすべての団体や個人に対しては、国家の側で許容した範囲内でしか、物理的暴力行使の権利が認められないということ、つまり国家が暴力行使への「権利」の唯一の源泉とみなされているということ、これは確かに現代に特有な現象である。(マックス・ウェーバー著、脇圭平訳『職業としての政治』(岩波文庫)9頁、10頁)

国家も、歴史的にそれに先行する政治団体も、正当な(正当なものとみなされている、という意味だが)暴力行使という手段に支えられた、人間の人間に対する支配関係である。(引用終わり。同10頁、11頁)



この議論には、極めて有意義な議論が多く内包されています。ただ、1つ重要な点を挙げるならば、この国家概念には、法規範と道徳規範を峻別する決定的な違いが隠されているという点です。それは、法規範、すなわち実定法によって形成される国家規範は、国家の正当な物理的暴力行使を背景にした規範であるということです。この点は、道徳規範と根本的に異なる点です。道徳に反する行為をしても、国家の物理的暴力が発動することはありませんが、法に反する行為をした場合や、法によって導き出された紛争解決に従わない場合は、国家の物理的暴力が発動する可能性があります。


このことは、日本国憲法が、国会が国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関であること(憲法41条)、国会は国民を代表した議員で構成・組織すること(憲法42条・43条)、国家が物理的暴力行使を発動するに際しては法定の手続によらなければならないこと(憲法31条)とは、密接不可分の関係にあります。

司法試験のレベルで言えば、「受験生の皆さん方が何を正当と思うか」等ということは、一切評価の対象ではなく、実定法、すなわち法律の条文から、一体、何が導けるのかということが問われていることを常に自覚しなければならないということです。そして、常に、その論理は、国家が独占する物理的暴力を正当化する論理でなければならないのです。

なぜなら、法律とは、どのような場合に、物理的な暴力を使ってでも実現すべきかという要件と効果が記載されている規範であり、既に、国会によって正当性が担保された規範であるからです。受験生の考える「正しさ」は、物理的な暴力を使ってでも実現すべき「正しさ」ではないのです。

もっと卑近な例で言えば、「思うに、」等という接続詞がでてくる答案は、採点者からすると、(極端に言えば)あなたの感想(価値観)なんて聞いていないと一蹴される答案です。あなたの思いは、法規範の正当性の根拠にはならないのです。法が何を考えているか、法の背後にある規範や価値観は何かを探りながら、未知の問題解決に道筋をつけるのが、法律家の為すべき作業なのです。

私は、常にこのことを意識して、法律を勉強し、答案を作成していました。今年、司法試験を合格された方も、残念な結果だった方も、いま、法律家になることを志しておられる方も、既に法律家になった方も、一度、この読書の秋に、『職業としての政治』を手に取られてみるのは、如何でしょうか。

なお、上記に記載させていただいたことのみをもって、「社会的相当性」等という言葉が出てくる学説はおかしい等と批判するのは筋違いです。また、このエントリーは、法律家がそれぞれ信じるところに従って己の正義を有することを否定するものではありません。これらの点、御留意の程、宜しくお願いいたします。

(追記:2010/9/22)

上記のウェーバーの本の引用にある「正当な物理的暴力行使の独占」という部分は、「正統な物理的暴力行使の独占」の方が適切ではないかという指摘がありましたので、この場でお伝えさせていただきます。ドイツ語の原文では、das Monopol legitimer physischer Gewaltsamkeit” のようであり、ウェーバーの概念を把握するにあたり、「正統性(legitimacy)」と「正当性(justification)」とは異なる概念として理解して、訳し分けておくべきであろうということでした。(@kazemachiroman さんありがとうございました) なお、上記の岩波文庫版の訳は、「正当な」となっておりましたので、そのまま残します。


2010年9月21日  4:26 PM |カテゴリー: その他 |5件のコメント

いま、私は、近畿経済産業局が主催している「平成22年度中国ビジネス知財戦略基盤定着支援事業」に参加し、中国の知的財産に関する法律を学びつつ、実務的な対応を検討しています。この企画、講師の弁護士・弁理士の先生方の知識レベルが高いことは勿論のこと、参加者の皆さんのレベル・意識も高く、大変刺激的です。また、支援受入企業側も、これだけの人数で議論した結果によって、プロフェッショナルからのコンサルティングを受けることができますので、双方にとって、非常に良い企画だと思います。講師の先生方には、感謝しても、しきれないくらい、多くのことを教えていただいています。

ところで、この企画において、中国の契約法353条と355条と行政法規である技術輸出入管理条例24条3項の関係についての議論がありました。非常にマニアックな論点なので、悪しからず・・・

それぞれの条文は、以下の内容である。

【関連条文:中国法】
契約法353 :  特許実施により第三者の権利を害した場合、実施許諾者が責任を負う。但し、当事者間に別途の約定がある場合はこの限りではない。
契約法355 :  技術輸出入契約…について、法律、行政法規に別段の規定がある場合は、その規定に従う。
技術輸出入管理条例(行政法規)24 III : 技術を受け入れた側が提供を受けた技術を使用し、第三者の合法的権益を害した場合、提供者が責任を負う。


【問題点】
契約法353は、任意法規規定であるため、ライセンス契約において、ライセンシー側の責任とする旨の規定を定めても、有効と解される。しかし、契約法355及び技術輸出入管理条例24 IIIによって、任意法規性が奪われ、「技術」を受け入れる旨の契約で、第三者の権利侵害はライセンシーの責任と規定しても、無効と解されるおそれがある。


具体的には、日本企業が保有している特許権について、中国企業にライセンスする場合や、中国企業から開発委託を受けて日本の知的財産権を利用して製作した成果物を引き渡す場合に、問題となる。すなわち、中国企業側の特許実施や成果物利用に際して、第三者の権利を侵害しても、(契約での規定に拘わらず)日本企業が責任を負わなければならない可能性がある。

【検討の前提】
そもそも、「法律」は任意法規であるのに、「条例(行政法規)」に強硬法規性を持たせることへの疑問もあるが、中国法において、契約の自由をどこまで徹底されるのかという根本問題に関連しそうであるし、中国の法体系秩序の問題にもかかわるので、ここでは避ける。また、結果として、渉外ライセンサーを国内ライセンサーより不利益に扱うことになるので、WTOに反するのではないかとの疑問も呈されるが、実務では、どうしようもない可能性が高いので、ここでは立ち入らない。


【検討】
ここでは、日本企業が中国企業にライセンスする場合を念頭に置いて、実務的に解決する方法がないかを考えてみる。


通常(日本国内の会社同士の契約等で、ライセンサー側が強い場合)、ライセンス契約や業務委託契約において、第三者からの侵害については、以下のような規定を置く。

■規定例(ライセンス契約)(ライセンサー優位の内容)■
ライセンシーが本発明の実施により、第三者の権利を侵害するに至ったときにおいても、ライセンサーは、その侵害についての責任を一切負わないものとする。


■規定例(業務委託契約)】(受託者優位の内容)■
委託者による成果物の利用に関して第三者の権利を侵害した場合、受託者は、その侵害についての責任を一切負わないものとする。


※ サンプルなので、簡略化した条文例を用いています。

しかし、技術輸出入管理条例24 IIIによると、提供者が責任を負うと規定しており、このような規定を設けても、無効になる可能性が高く、その場合、ライセンサーや受託者(日本企業側)が責任を負わなければならない。

■対策案1■
無効を覚悟で、規定する。そして、無効になった場合に備えて、他の規定を置く。


■対策案2■
ライセンサー側に訴え等が提起された場合に、協力すべきとする協力義務規定を置く。


■対策案3■
ライセンスの対象を出来る限り限定して、そもそも権利侵害が生じにくいようにする。


■対策案4■
ライセンサーが被った損害をさらにライセンシーに求償できる旨を規定しておく。


とりあえず、いま、考えられるのは、このようなところである。これらの対策案は、相互に矛盾しないので、実務に合ったものを適宜利用することになるだろう。■対策案1■の他の規定とは、対策案2や4の規定や、分離可能性条項と呼ばれる、「ある規定が無効となっても、他の規定は有効です。」という内容の条項を念頭に置いている。■対策案4■は、中国の人民法院の解釈で無効にされてしまう可能性も十分にあるが、理論的には、「第三者との関係では技術輸出入管理条例24 IIIで提供者が責任を負うが、当事者間では、技術を受け入れた側がその損害を負担する」と定めることは、技術輸出入管理条例24 IIIに反しないという解釈も成り立ちうるのではないかという発想に基づくものである。

いずれにせよ、問題が起きた場合には、訴訟になる前に解決できる方がよい。訴訟外での交渉では、仮に無効になるかもしれない条項があったとしても、有効となる可能性によって交渉力が得られることもあるので、適宜御検討いただきたい。

(検討終わり)

この見解は、私が備忘録的に作成したものですので、実際にライセンス契約や業務委託契約等を作成する場合は、中国法の専門家を含めた専門家の意見を参考にして下さい。(このエントリーを参考にして作成して頂いても、私は責任を負えません。)

2010年9月17日  8:30 AM |カテゴリー: ベンチャー・ビジネス, 企業法務 |コメントはまだありません

昨日(15日)、新聞等において、「エフオーアイ社が、実際の売上高はわずか3億円弱しかなかったのに、約118億円とウソの記載をしていた疑いで、強制捜査された」旨が報じられていました。



日本経済新聞「エフオーアイ社長を逮捕 115億円粉飾決算の疑い 」

東証マザーズに上場していた半導体製造装置メーカー「エフオーアイ」(相模原市、破産手続き中)の粉飾決算で、さいたま地検は15日、上場時に約115億円の売上高を水増ししていた疑いが強まったとして、同社社長、奥村裕容疑者(60)を金融商品取引法違反(有価証券届出書の虚偽記載の疑いで逮捕した。
証券取引等監視委員会は近く、同法違反容疑で刑事告発する。
上場わずか7カ月で上場廃止となった新興企業を舞台にした粉飾決算は経営トップの逮捕に発展した。同地検と監視委は今後、財務担当の専務(46)らについても逮捕する方針で、粉飾決算の全容解明を目指す。(引用終わり)

日本経済新聞「監視委、エフオーアイ関係先を強制調査 粉飾決算事件」

監視委によると、同社は株式公募を実施する際、2009年3月期の実際の売上高がおよそ3億円だったにもかかわらず、約118億円と架空計上して記載した疑い。同監視委は「売上高の97%を粉飾しており、強制調査による実態解明を要する悪質な事案。告発に向けてさらに調査を進める」としている。(引用終わり)




有価証券届出書の虚偽記載は、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金、又は併科です(金融商品取引法第197条第1号)。

この事件は、売上高の約97%の粉飾であり、最早、粉飾決算というレベルを超えて、詐欺罪(10年以下の懲役。刑法第246条)に近いと思います。調達金額は、50億円以上ということですので、50億円以上の詐欺事件となると、歴史上でもなかなか見当たらないのではないでしょうか。

本件については、ほぼ確信犯的に実行されていたようであり、その騙しの手口の巧妙さやチェック体制についての議論は、多くなされておりますので、ここでは、IPOを目指す会社と、有価証券届出書や目論見書の虚偽記載との関係に、議論を絞って、議論したいと思います。

IPOを目指す会社は、当然ながら、いずれは有価証券届出書や目論見書を作成しなければなりません。上場前に作成しようという段階になり、「正確かどうかわからない」という状態は、問題です。この点は、主幹事証券会社も厳しくチェックします(しているはずです)。

ちなみに、主幹事証券会社も、目論見書等の重要な事項について「虚偽記載等の事実を知らず、かつ、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったこと」(金融商品取引法第17条但書)、有価証券届出書のうちの重要な事項について「記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、財務計算書類以外の部分については、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったこと」(金融商品取引法第21条第2項第3号)が立証できない限り、損害賠償責任を負います。したがって、少なくとも、相当の注意を用いたと立証できる程度には、虚偽記載等がないかについての審査を尽くすことになります。これがいわゆる「引受審査」です。主幹事を引き受ける証券会社には、引受審査部という部署があり、この部署が担当します。

この引受審査を通過するには、(当然のことながら、粉飾を誤魔化す手口を巧妙にするのではなく、)予め、審査されても大丈夫なように社内の体制を整えておく必要があります。


例えば、株主の記載が問題となることがあります。有価証券届出書等においては、直近3ヶ月の株式の移動や主要株主が記載されます。ところで、株券発行会社の株式譲渡は、当該株式に係る株券を交付しなければ有効ではありません(自己株式の処分を除く。会社法第128条第1項)。これは、いわゆる株券不所持制度を採用していても同じです。したがって、株券発行会社において、過去に株式譲渡が行われている場合、株券の交付が行われていなければ、その株式譲渡が無効である可能性があります。これは、そのまま放置すると、有価証券届出書等の株主の欄や株主が保有している株式数が虚偽である可能性があることを意味します。これらの事実が「重要な事項」か否かは、ケースや程度によることになるでしょうが、審査側としては、放置できる問題ではありません。そこで、IPOを目指す会社としては、その株式譲渡が有効であることを証拠により説明しなければなりません。そこで、実際には、株券の交付を行い、それを確認する書面を新旧の株主から取得するか、適法であることの意見書を取得する等の方策が採られることが多いです。

他にも、重要な契約について、解除が極めて容易になされる旨の条項が規定されているにもかかわらず、これを記載しないことも虚偽記載になる可能性があります。いくら当事者同士で信頼関係があるとしても、将来的に関係が悪くなって、解除されてしまうことが十分あり得ます。その時に、解除条項が開示されていないことが問題となる可能性は否定できないでしょう。したがって、IPOを目指す会社は、重要な契約については、いくら信頼関係があっても、相手方の一方的な意思表示で解除されてしまうような条項や、容易に条件が満たされてしまうような解除条項は、断固として拒絶しなければなりません。

上場準備の段階になってから、修正するのは大変手間ですし、場合によっては修正しきれず上場が延期になってしまうことさえあります。IPOを目指すベンチャー企業は、早い段階から、将来、有価証券届出書等を作成することを念頭に、社内の体制を構築しておかれることを強くお薦めします。結果的には、コスト的にも、上場のチャンスという意味でも、良い結果に繋がると考えます。

2010年9月16日  8:30 AM |カテゴリー: 企業法務 |コメントはまだありません




Facebook のファウンダー、Mark Zuckerberg 氏が上場についての次のような意見を表明したとのことである。

Mark Zuckerberg、「Facebookを近々上場するつもりはない」

われわれはFacebookを近々上場するつもりはない。われわれの株式上場に関する考えは他の多くの企業とは異なっている。多くの企業にとって株式上場こそが目的であり、上場の成功を目指して経営を最適化しようとする。われわれにとっては上場ははゴールではない。ある時点で上場が適切な選択であるようになれば上場するだろう。われわれは外部からの投資を受け入れているし、自社株を社員に給与している。最終的にこれらの株式が現金化できるようにすることは私の責務だと思う。しかし上場が短期的に行われなければならないとは考えていない。Facebook が持てる可能性を最大限に発揮できるようにすることが最優先の責務だ。(引用終わり)

この意見は、正論であり、何ら反論できるところがない。上場は会社という組織にとってのゴールではない。多くの一般投資家から資金を集めることは、その資金で事業を拡大し、引いては、会社がより永続的に発展するためになされるべきことだからである。


一方で、上場することを、going publicとも表現するように、公の会社になるという側面がある。情報を公開し、一般の株主が増えることにより、同族の経営者ではなく、より多くの株主に認められた人材を経営者とすることに資する、公の目で監視され不適切な行為が是正され易いというメリットがある反面、経営者の独断で行うようなリスキーな意思決定がしにくくなる。上場すると、高いコンプライアンスを求められ、意思決定に対するチェック機能が厳密になるのである。

google社は、経営陣の経営の自由を確保しながら、public companyとなるために、経営陣に種類株式を発行したまま上場するという手段に出たが、このような手段をとれる会社は、ほとんどない。



Facebook 社が大きなリスクを伴う開発計画が有するために、上場を延期して、非公開会社であるうちにチャレンジするということ自体はもっともな判断である。上場すると、そのようなリスクの高い経営判断は、取締役の忠実義務や善管注意義務に反すると株主に追及されかねない。ただ、以前のエントリー「ベンチャー企業のファイナンス方法の選択」でも指摘したように、VCやエンジェルから資金調達している限り、そのようなリスキーなチャレンジを理由とする上場延期をいつまでも続けるわけにはいかないのもまた現実なのである。一般的な上場準備会社にとって、上場に適した時期は、そう何度も訪れてくれるものではない。チャンスがあるのであれば、トライすべきであり、一度チャンスを逃すと、次のチャンスは当分の間訪れないことも決して稀なことではない。


そのために、法律面を含めて、変なところで上場審査に引っかかって、延期にならないようにするためにも、早い段階からIPOを意識した準備が必要である。

To go public, or not to go public: that is the question.

 
   
2010年9月
    10月 »
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  
 
 
 
 
 
 
お問い合わせはお気軽に/06-6228-0505
サイトマップ
ベンチャー法務の部屋
 

RSS

HOME事務所紹介弁護士紹介採用情報所在地本サイトの利用条件プライバシーポリシーサイトマップお問い合わせ

COPYRIGHT2010 ©, 山本・森・松尾弁護士事務所 All Rights Reserved.